皆さんは、愛犬の犬種の歴史を知っておりますでしょうか。今回はコーギーの歴史をご紹介します。愛犬がどのような歴史をたどってきたのか覗いてみましょう。
90年代にブーム
私が子供の頃であったうん10年前、日本ではコーギーという名前すら知られていなかった。それが90年代の終わりころだろうか、紅茶か何かのCMによって有名なり、瞬く間に人気犬種となった。当時久しぶりに日本に帰ってきて、実家の住宅街をウロついてコーギーを見つけた時の驚きは今でも覚えている。だいたい、これまでだったらこんな住宅地に出没するような犬種でなかったのだ。その後、何度もコーギーに出会うことになった。JKCの統計ではしばらくトップ10内にランクされ続けた。だが、正直このトレンドには少し意外な気持ちもした。もちろん流行犬種なんて日本ではまるで珍しくない現象だ。が、コーギーの場合これまでの人気犬種パターンとは違う気がする。
通常日本の人気犬の場合、ゴールデンやラブのように欧米での人気犬種の後追いパターンを取っていた。でも欧米各国の犬種登録を見ると、コーギーは必ずしも毎年トップ10に入る程の普遍的人気を誇る犬種ではない。アメリカやイギリスですらトップ20にも入っていない。大陸ヨーロッパになると、もうマイナー犬種の域。日本人になぜそんなにウケたのか、その理由の一つに、コーギーの立ち耳に見られる「スピッツ・ルックス」にあるのでは、と睨んでいる。どんなに垂れ耳の洋犬が氾濫しても、柴に代表されるスピッツ系のイヌに対する親しみとか懐かしさを覚える我々日本人。これは田んぼの風景を見るような永遠かつ国民的な感情かもしれない。
北欧からウェールズへ?
コーギーはイギリスのウェールズ出身だ。コーギーの名前はウェルッシュ語で“Ci Sodli”。これは踵を噛むという意味で英語では“heel”という。つまりコーギーが家畜を追うときに使うテクニックがそのまま名前になっている。名前の由来はこの他にあって、ウェルッシュ語で“Cur Si”あるいは“Cor si”という名前の小さな植物があるのだが、これから来ているのではないかとも考えられている。
その歴史は古く、900年代にウェールズに存在していたと考えられている。その起源はいろいろ説があるが、その一つがスカンディナビア半島の地犬であるヴェスタヨータスピッツをバイキングがウェールズに連れてきたというもの。ヴェスタヨータスピッツとはコーギーによく似た立ち耳の短足胴長犬。牛追い犬として使われていた。このスピッツがウェールズの地に着いた後、地犬と交わり、コーギーが出来上がったのではないか、言われている。
ヴァイキング説はどこまで信憑性があるのか?彼らは特に800年代交易者であると同時に船を駆使し新天地に農耕地を求めた北欧の農牧畜民だ。コーギー・ペンブロークの故郷、ウェールズのペンブロークシャーにはヴァイキングがかつて植民していた証拠として遺跡があるし、地名にも北欧語が残っていたりする。なんとストックホルムという村名もあるほどだ。農牧畜民の彼らだからこそ、故郷からその牧畜犬を伴っていた可能性は高い。ペンブロークシャイヤにやってきた彼らのイヌが新天地にてやはり牛追い犬として活躍し、後にコーギーとなったという推測が立つ。
ただしこの説の反対を唱える人もいる。ウェールズには最初からコーギーのプロトタイプのイヌがいた、ということ。そしてヴェスタヨータスピッツはバイキングがウェールズから半島へ帰るときに連れ帰って出来上がったという犬種ではないか、というものだ。イギリス人ならこの説に納得しそうだが、北欧人はこう反論するだろう。
「イギリス原産のスピッツ系のイヌがコーギーの他にいる?」
国犬の多さでは世界一を誇るイギリスであるが、スピッツ・ルックスのイヌがコーギーを除いて他にいないのはそういえば不思議なこと。もしスピッツ犬がイギリスにネイティブとして存在していたら、他に犬種がいてもよさそうだ。一方で、北欧にはヴァルフンドを始めたくさんのローカル・スピッツ犬がいる。
もう一種のコーギー
コーギーには2種の犬が存在する。日本におけるいわゆるコーギーというのは、ウェルッシュ・コーギー・ペンブロークを指す。もう一つの犬種はウェルッシュ・コーギー・カーディガンという。こちらは滅多に見ることがないレア犬種だ。同じくウェールズ出身で、カーディガンシャーを故郷とする。ペンブロークシャーとカーディガンシャーは山岳で遮られており、両地に住んでいた短足の牧畜犬の間に血の交換というのはおそらく何百年かはなかったと考えられている。しかし1900年代に入り、交通事情がよくなって各々の地方にいた牧畜犬は混じり合うようになった。そして1934年までペンブロークシャー出身とカーディガンシャーのコーギーは同じ犬種として見なされていた。
エリザベス女王のお気に入りの犬として
初めてコーギーがイギリスのショーで出陳されたのは1925年。この頃すでにイギリスのケネルクラブにより公認を受けていた。ただし、コーギーを世界的に有名にしたのはエリザベス女王だ。父親であるジョージ5世が女王が小さい時にコーギーを飼い与えたのが始まり。その犬の名はRozavel Golden Eagle、通称ドゥーキー。その後、ロイヤルファミリーにおいてコーギーの存在はなくてはならないものに!エリザベス女王が何匹かのコーギーに囲まれ撮影されているシーンは世界中で有名となった。1925年のイギリスケネルクラブにおける登録数はたったの10頭程度(ペンブロークとカーディガンを合わせて)、ところが1934年では240頭(ペンブロークのみ)、そして1950年ではなんと4000頭以上にも!一番のピークは1960年の8933頭。
その後は、数を減らしついに4年前ではイギリスケネルクラブによって「絶滅危機にある原産犬種」のリストに加えられた。年間登録数が300頭以下になると絶滅危惧種として見なされる。ただし、最近はまたコーギーの人気は徐々に盛り返し、今年そのリストからも外されている