皆さんは、愛犬の犬種の歴史を知っておりますでしょうか。今回はチワワの歴史をご紹介します。愛犬がどのような歴史をたどってきたのか覗いてみましょう。
その小ささ、一体どこから来たの?
犬が野生の先祖オオカミから発展したという事実を考えると、チワワのサイズというのは生き物世界の七不思議の一つでもあるだろう。オオカミの体重は30〜50kgだが、そこからややもすれば1.5kgぐらいにしかならない犬種ができあがったのだ。人為的選択交配の結果とはいうが、これもイヌという動物の遺伝子バリエーションの広さを示している。チワワとマスティフの体重を比べれば、そこにはなんと約45倍の開きがあるのだ。馬の世界にも最小であるミニチュア・ホースがいるが、最大級の馬種と比較しても、いくらなんでもそこまで人為的に小さくするのは不可能だった。
謎は謎だけに、一方でチワワはとんでもない誤解を受けていたりする。日本のドッグ・ファンシャーにはとても考えられないことだが、アメリカでは「チワワってネズミとかモグラの親戚?」と質問する人もいるから困ったものだ。ちなみにネズミはげっ歯類、モグラは食虫類。チワワはイヌ科で食肉類に属する。 全く違う動物だ。まだここまでは人々の想像で可愛いものであるが、アメリカのチワワの犬種本(Chihuahua Completely Illustrated with Colour and Photographs By Barbara J Andrews)には、チワワが「フェネック」というアフリカのサハラ砂漠に住むキツネとのミックスではないか、という説が大真面目に展開されている。フェネックは、野生の犬科動物の中では一番小型のキツネ科の動物。なんとチワワ同様に1〜1.5kg程度しかない。おまけに耳が大きく、目がクリクリしている。たしかに見かけはチワワに似てなくもないが、そもそもキツネとイヌの交配は染色体の数が違うので不可能だ。フェネックの耳が大きいのは砂漠に住む動物として熱発散を最大限にするための機能、そして目が大きいのは夜行性だからだ。
現在は犬種の遺伝子を解析してオオカミとのつながり、どのように犬種が繋がっているか研究が盛んに行われている。これら研究でもチワワが他の犬たちの例にもれずオオカミの子孫であるのは明らかだ。そして面白いことに、今から8年前の話だが犬を小型にする遺伝子が見つかったという研究報告 もある。そしてこの遺伝子の仲間が中近東のオオカミにも見つかっているという。
地中海マルタ島、チワワの故郷?
チワワはメキシコのチワワ州を訪れたアメリカ人旅行者によって偶然発見され、買われていった。このイヌとさらにアメリカに連れて来られた数匹を土台として純血種として改良したものが、現在の犬種としてのチワワである。
だがどこからチワワのような小型の犬がメキシコにたどりついたのか、についてはやはり何もこれといった証拠はない。今から1000年前にメキシコ一帯に存在していたトルテック族はテチチという小型の犬を飼っていたということだ。12世紀頃トルテック族の地はアステカ族の支配となった。その時、テチチをさらに小型化してチワワの原型を作られたとも言われている。
しかし、新世界より地中海一帯がチワワの本当の故郷ではないか、という説を唱える人もいる。イタリアのサンドロ・ボッティチェリ(1445-1510)の絵画の一つにチワワらしきイヌが描かれているのは、チワワ・ファンシャーの間で有名だ。そのイヌは丸いドーム型の頭を持ち、目の離れ具合、耳の付きかた、脚の感じといい、まるで現在のスムース・チワワ。
これは、マルタ島(イタリアの隣にある島国)でポケット・ドッグと呼ばれていた古い小型犬がモデルになったと考えられている。当時マルタ島の人々はトルコ人の制圧から逃れイタリアに避難していた。そのときに連れて来られたイヌをボッティチェリは参考にしたのかもしれない。そして1500年代、スペイン人とポルトガル人がメキシコへ進出したおりに、彼らが故郷からつれてきたポケットドッグを置き去りにし、その個体が元になって中央アメリカにチワワの元となる犬ができたのではないか…?
ただし遺伝分子学の発達によってまたもやヨーロッパ発祥というシナリオは塗り替えられている。2013年にスウェーデン王立工業大学のピーター・サボライネンら研究者によってチワワには、1000年前からメキシコに存在していた古代犬と同じDNAが残されていることが発見された!
今時のチワワ事情
メキシコのローカル犬だったチワワ、今やその人気は世界的だ。日本では90年代の終わりから2000年のはじめ頃に流行りだした。その数年後にヨーロッパでもブームがやってきた。なぜこんなに人気が出たのか?それは人々の生活が世界的にアーバン化(都市化)を迎えているためではないかと思うのだ。都市に住む、ということはまずスペースに限りがある。忙しくて時間もままならない人も多いはずだ。その状況でも唯一飼えるのが世界一小さな犬種チワワ、と多くの人は考えたのではないか。場所を取らないから狭いマンションでも飼えそう、そしてもしかしてあまり散歩に行かなくてもいいかもしれない(忙しくて時間もないし…)。さらにチワワの可憐な見かけは気持ちを癒してくれる…。
しかし、その小さな体にかかわらず、チワワは犬としての一通りのニーズを持つ。小さくても、犬だ。退屈は嫌い。本来は散歩が大好きな犬である。お人形ではなく「犬らしい」生活を与えるのがチワワへの尊厳というものでもあるだろう。人気があるのは結構なことではあるが、「癒してくれる」など人のニーズばかりでチワワを求めないでいただきたいものだ。
■グループ9 愛玩犬(コンパニオンドッグ&トイ・ドッグ)