ブリーディングの歴史 10 犬種クラブの役目

ブリーディングの歴史 9 飼い主を選ぶからの続きです。

筆者が住むスウェーデンにはスウェーデンケネルクラブ公認の各犬種ついて犬種クラブというものが存在します。もちろんいくつかの非公認犬種にもクラブが存在します。ここはブリーダー、飼い主が犬種についての知識を得たり、あるいは当犬種についてのデータを蓄積する場所、当然、ブリーディングについての真剣なディスカッションが行われるところでもあります。犬種クラブ内にはいくつかのコミッティがあり、その中に必ずブリーディングコミッティ(ブリーディング委員会)が設置されています。

犬種は人為的に閉鎖されている集団ですからその健全性を保つためには、計画性が必要となります。以前お話ししたブリーディングの歴史 3 集団遺伝学の面から見ると、健全性は全体像を把握して初めて達成できるものだということがわかりますね。そこには遺伝子の多様性がなければなりません。それを実現させるためには、実際にどれだけのインブリーディングが犬種内で進行しているのかを知る必要があるりいます。自分が使ったオス犬を父とする犬は、この犬種界にどれだけいるのか、さらにインブリーディングを防ぐために、どのように親戚同士の交配を避けることができるのか、どの犬がどんな疾病にかかっているのか…、これらの知識を収集するのに個人の力では限界があります。

ならば、それを誰がやるのでしょうか? 獣医師? 研究者?

北欧諸国ではその役目を担うのが、ケネルクラブであり、犬種クラブです。

ブリーダー一人の力では健全な犬種ブリーディングを成就させることはできません。健全性を維持するには犬種全体における遺伝子の多様性が必要です。それを促進させるためには、血のつながりのできるだけ少ない親犬の掛け合わせを常に行っていかなければなりません。ですからシリアスブリーダーたるもの、親犬をとっかえひっかえし、さまざまなコンビネーションでのブリーディングをするものです。それにはさまざまなブリーダーと連携を取る必要があります。その連携を促す場所として、犬種クラブはとても大事な役割を果たしています。

ケネルクラブが生まれてくる子犬を登録するために守るべき規則を施行する一方で、犬種クラブも独自のルールをブリーダーに課します。さらに犬種クラブは、ケネルクラブのブリーディング規則がきちんと守られているか、そのモニター役も果たします。そのために、各犬種クラブは「犬種に即したブリーディング戦略書」というレポートを数年おきにケネルクラブに提出することが求められ、これを手引きにして、ブリーダーはさらに健全な繁殖を進めていくことができます。もちろん研究者や獣医師がこのレポート作りに携わっているのは言うまでもありません。これらヘルプはケネルクラブから調達されます。

ブリーディング戦略書には、健康の側面からではなく、気質面、外見についても、現時点で問題になっていること、あるいは逆に改良されているところ、良い面などについても記されています。これはまさに「犬種内で何が起きている?」読本と言ってもいいでしょう。

犬種クラブの役割は健全性の管理のみならず、犬種愛好家のためのセミナーの開催やドッグスポーツ競技会の推進も行います。もちろんオフ会のようなカジュアルなドッグミーティングもありますが、オフィシャルな競技会も開催されます。競技の成績によってその犬の資質を見極めていくのが目的です。たとえば、ラブラドールレトリーバーやゴールデンレトリーバーなど、レトリーバー犬種のクラブはレトリーバーの資質をチェックする狩猟能力テストを開催します。こうしてこれまで犬種の特性は守られ続けてきました。一定基準を満たすと、タイトルも与えられます(狩猟技能チャンピオンなど)。もちろんテストの成績はデータベースに記録として残され、これもブリーダーが繁殖個体を選ぶときの指標となります。ドッグショーの成績についても同様です。そしてこれら犬種の保存は、犬種クラブの存在なしには成し遂げられなかったといってもいいでしょう。

文:藤田りか子

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