グループ別の歴史をご紹介。グループ1は牧羊犬。
犬の助けを借りずに一度自分で羊の群を動かしてみれば、ハーディング(羊追い及び羊集め)という技の難しさが分かるはずです。群はすぐにばらけてしまうし、上手く回り込んでもなかなか全員揃って思う方角へ歩いてはくれません。
「一匹の牧羊犬が12人分の仕事を助けてくれる」
とオーストラリアでは言ったものです
家畜文化が栄えたアジアからヨーロッパ、そして新大陸のオセアニアにかけて、人間の大事な片腕となり農場の仕事を助けるなど、犬が果たした役割はとても大きいものです。世界畜犬連盟(FCI)では犬種を使役によって10のグループに分けていますが、グループ1はそんな牧羊職を起源とする犬の種類で成り立っています。ボーダーコリーのように今も羊集めに活躍している犬種もいれば、ジャーマン・シェパードのように羊集めという役を担ってた頃の才能を生かして警察犬といった全く別の仕事につく犬種もいます。
ただしほとんどの犬種は今となっては家庭犬という職務に従事しているものです。それでも牧羊犬由来の独特の元気さ、まめまめしさ、従順さと反応のよさを今も体躯にそして性格に残しています。それが人々を魅了する理由でもあり、グループ1がFCIグループの中でももっとも世界的に人気ある犬種群でなりたっているのは、偶然ではないでしょう。
牧羊犬としてFCIで認められているのはおよそ30種。こんなバラエティ豊かに犬種が存在するのは、すなわち世界の家畜文化の多様性の反映でもあります。家畜文化の数だけ、それに適応した犬種ができた、ということでもあります。ヨーロッパのひしめきあう国々を覗けば、その国ならではの土着の犬種がいくつもいます。
その土地にいる家畜のタイプ、つまり、牛、羊、馬を追うかでも犬種の分化がおこります。さらに同じ家畜でも、散らばりやすいとかまとまりやすいか、肉用なのか、ミルクのためなのか(=人の手に慣れやすい)、によって適した牧羊犬種が出現します。イギリスの羊は四方八方に散らばるタイプなので、羊を一頭一頭丁寧に処理できるボーダーコリーのような犬が適しています。だからイギリスでボーダーコリーが作出されました。
ヨーロッパ大陸の羊は群に固まりやすい性質をもっています。そこでシェパードのような体のポジションだけで羊の動きをコントロールする犬が発達しました。羊追い犬の応用編として、牛追い犬もいます。ただし羊に比べると牛はもっと強気で、動かすのが決して易しくはありません。ヒーラーやキャトルドッグのような後から吠えて強くプレッシャーをかける犬が牛追いには合っています。
シープドッグトライアルなるドッグスポーツが日本にも紹介されましたが、そのルールはあくまでもボーダーコリー用にアレンジされたもの、とここで気がつくはずでしょう。これだけ世界に牧羊犬種がいるのですから、それぞれのシープドッグ使役にあったトライアルが考案されて当然です。たとえば、ドイツにはジャーマンシェパードだけの競技会があるし、フランスのピレネー山脈には、ピレニーズシープドッグのハーディング方法に基づいたルールが適用されています。文化と犬の種類、その性能というのはきっても切り離せない関係にあるということをぜひ心に留めておいてくださいね。