グループ別の歴史をご紹介。グループ2は牧畜犬と農場犬。
世界畜犬連盟(FCI)のカテゴリーにおける第2グループには、クマのようなどっしりとしたマスティフ系や仔鹿のような可憐なミニチュアピンシャーが存在しています。同じグループの中にあまりにもタイプが違うこれらの犬種たち。どのような分け方をしたらいるのだろう、とちょっと理解しにくいところでもあります。第2グループの特徴は牧畜や農場に関係する犬種であること。牧歌的なイメージが湧きますが、ただしこのカテゴリーの犬たちはハーディング(羊追い)は行いません。
このグループの犬たちのほとんどが「かつて使役をしていました」という犬種なのですが、中には現在進行形で働いている犬種もいます。フランスのピレネー山脈で羊を守るグレートピレニーズなどがその一つです。グレートピレニーズの牧畜番犬としての役割は実は牧畜の近代化によって忘れ去られていました。しかし羊を捕食するクマやオオカミなどの野生動物と共存するには犬に番をしてもらうのが一番いいということで、牧畜番犬としてのグレートピレニーがフランスのピレネー山脈にてリバイバル。これは野生動物保護のためのプロジェクトとしてEUによっても補助を受けました。
グレートピレニーズと同じ使役機能を持つ牧畜番犬はヨーロッパからアジアにかけて各国にいるので、種類も豊富です。ポルトガル、スペイン、クロアチア、マケドニア、ロシア、トルコなどそれぞれの原産国種が存在しています。ただしイタリア(マレンマ・シープドッグ)、ポーランド(タトラ・シェパード・ドッグ)、ハンガリー(コモンドールとクーバーズ)の牧畜番犬はグループ1にカテゴライズされています。グループ1は羊や牛を追ったり集めたりする犬たちで成り立っているので、本当はここが正しいカテゴリーではないのですが…。
このグループにはさらにいわゆるモロシアン系といわれているマスティフタイプの犬も集められています。モロシアというのは今のギリシアからアルバニアにかけての地域。ここにローマ時代に作られた大型犬の彫刻があるのですが、それよりローマの人々は大型犬をモロシアの犬と呼んでいたそうです。ローマ人はかつて大型で重たいタイプの犬を戦闘犬として使っていました。モロシア系の犬たちはまさにローマ時代の戦闘犬を思い起こさせる犬種です。マスティフのようにいずれもスムースコートで、マズルが短く、頭部が巨大。イタリアの原産犬ナポリタン・マスティフやフランス原産のボルドー・マスティフが代表的でしょう。
日本で人気の超大型犬バーニーズ・マウンテンドッグとニューファンドランドもこのグループに属します。ただしバーニーズ・マウンテンドッグはその名の通り「山の犬」ではありますが、グレートピレニーズほど牧畜番に特化することなく、どちらかというと農場周りの仕事全般を請け負っていました。たとえば荷車を引くというような仕事もしていたようです。ニューファンドランドは、カナダの東岸で漁師を助けたり伐採した木材を運ぶというような使役についていましたが、当時は今ほど大きくなかったようです。巨大化したのは、1800年代にイギリス人に発見されて犬種としてブリーディングされてからとも言われています。
農場周りの仕事全般を請け負う犬としては、ドイツの農場犬ジャーマン・ピンシャーも同様です。農場で番をしたり、また害獣退治に精を出していました。ジャーマン・ピンシャーから、ミニチュア・ピンシャーやそのワイヤードヘア版のミニチュア・シュナウザーが犬種として確立されます。これら小型種は、確かに害獣退治犬として活躍していたかもしれませんが、サロンの愛玩犬として選択的に繁殖を受け、より小型でより洗練された形に変わってゆきました。今では世界の家庭犬の代表種となっていますね。