グループ別の歴史をご紹介。グループ5はスピッツ・プリミティブタイプ。
日本ではスピッツというとあの白い日本スピッツを思い浮かべる人が多いでしょう。昭和30年代にわが国で日本スピッツが全盛だった時代がありました。当時皆がその犬のことを「スピッツ」と呼んでいました。ただし犬種学的にスピッツというのは日本スピッツのみを指すわけではありません。柴、秋田、シベリアン・ハスキー、ポメラニアン等を含めた、とんがり耳に、とんがりマズルの犬はスピッツタイプに属します。スピッツとは「尖がっている」を意味する北ヨーロッパ系の言葉です。しかし、尖がっているだけなら、ジャーマン・シェパードだってスピッツ系統にいれてもよさそうですが、さもありなん。スピッツ犬種とは、アジア、及びシベリアから北欧にかけたユーラシア大陸を故郷とする原始的な犬を指します。
アジアには、多くのスピッツ系の犬が存在します。ほとんどの日本犬がそうですね。さらに、韓国や中国にもいます。中国のチャウチャウもスピッツ系です。東南アジアにもいくつか犬種として確立されたプリミティブ系の犬がいます。タイ・リッジバックドッグなどが有名です。これらの犬は、確かにスピッツですが、ショートコートでありつるっとした印象です。そういえば、沖縄のスピッツ犬である「琉球犬」も他の日本犬に比べて短毛であるのが特徴です。
ロシアにはライカというスピッツ種のグループが存在します。ユーラシア大陸は広大で、さまざまな系統が地域ごとに存在します。そのうちいくつかが純血種としてFCIに認められています。近代に入ってから、ライカは地方の民族分布をもとに区分けされました。多くは猟犬種です。ちなみに当時サモエド・ライカと呼ばれていたのは、現在のサモエドとなりました。ネネットという民族に飼われていたスピッツ犬でした。トナカイのハーディングを手伝ったりそり犬として活躍したりと、マルチに使役をこなしていた犬と知られています。
シベリアン・ハスキーはシベリアの北の最東端に住むチュクチ族の犬でした。彼らは内地と沿岸部に渡って住んでおり、特に沿岸部ではそりの動力として犬にたよっていました。チュクチ族の橇引き犬は発見当初から見かけが非常に統一していたとのことです。
シベリアからウラル山脈を越えてさらに西に向かうと、北欧にぶつかります。ここにもスピッツ種が存在します。多くの北欧スピッツはライカと同様に猟犬種です。ノルウェイジアン・エルクハウンドはその代表種でしょう。そして彼らの狩猟における技と日本犬のそれがほとんど同じであるのは、とても興味深いことです。北欧スピッツ種が鹿を狩るときは、決して直接攻撃することはありません。鹿を探したら、そばで吠えてひとところに止めて置きます。日本で「吠え止め」といわている猟芸です。
中部ヨーロッパには実はあまりスピッツ犬種がいません。おそらくヨーロッパ人は家畜の品種改良がとても上手な人たちで、もともといた犬たちをどんどん使役犬として改良していったためでしょう。しかしドイツには古いタイプの犬が残されています。それがジャーマン・スピッツというグループの犬種たち。サイズは5種類あり、その一番小型のタイプがポメラニアンです。ただしポメラニアンは原始のスピッツ種とはいいがたいです。というも、確かにその土台は古いスピッツ種ではありますが、1800年代に貴族が小型愛玩犬として改良を重ねたからです。
南ヨーロッパのスペインやポルトガル、地中海沿岸地帯にはいると、また別のタイプのプリミティブ系の犬種が登場します。有名なところではファラオハウンドですね。これらの犬たちはほとんどが狩猟犬です。