グループ別の歴史をご紹介。グループ10は視覚ハウンド。
その土地にあった狩りをする能力や身体的特徴を備えた個体が人為的に選ばれ、固有の狩猟犬として発達しました。例えばタイガ(針葉樹林地帯)の民族のところからは視界の利かない森で嗅覚と持久力に優れた狩猟犬、現在でいうスピッツ犬(ライカ)が生まれました。同様に草原の民も広い土地での狩猟形態に相応しい犬を得ました。大地を駆け抜けるガゼルやウサギにスピードで追いつきそして捕らえる「コーシング」という狩猟方法に極度に専門化した犬。それが即ち、流線型のボディに長い脚を備えた「視覚ハウンド」なのです。砂漠やステップが広がるアラビア、ペルシア、中央アジア等では現在も伝統的に視覚ハウンドで狩猟(コーシング)を行っています。
コーシングによる猟の対象となる獲物は、主にウサギ(英語でヘア Hareにあたる方)です。が、たとえばアフリカやアラブ諸国であればガゼルであったり、中央アジアであればさらにキツネ、そしてアメリカではコヨーテも含まれます。そして時には、鷹狩との組み合わせで行われます。伝統的には中近東や中央アジアがその主な地域です。
視覚ハウンドの代表犬種ともいえるのがサルーキやアフガンハウンド。現地(中央アジア、中近東)で特に明確なブリード名も持たず、十把一絡げに「視覚ハウンド」を意味するような名前で呼ばれていました。場所によってサルーキであったり、あるいはタズィとも呼ばれていました。ちなみにアフガンハウンドのアフガニスタンでの現地名はタズィです。
サルーキは現在もほとんど原型を保っている視覚ハウンドです。しかしアフガンハウンドに関していえば、最初からショーリングでみるようなゴージャスなコートをまとっていたわけではありません。あの華麗さは後から欧米人によって改良を重ねられた結果です。現地のアフガンハウンドはより現代のタイプに近い見かけの場合もありますが、サルーキに似ていたり、あるいはその中間の見かけだったりします。
日本で一番よく知られている視覚ハウンドは、イタリアン・グレーハウンドでしょう。時にウィペットのミニチュア版と考えられたりするのですが、互いにそれぞれ独立した犬種です。まずイタリアン・グレーハウンドの方がウィペットよりも歴史が長いのです。中世期までには地中海沿岸地帯の貴族の愛玩犬、同時にフランスやドイツで貴族の狩猟犬として発達しました。鷹匠によるウサギ狩りで視覚ハウンドとして使われていました。
ウィペットの方は、小型といえど貴族の愛玩犬として始まったわけではありません。原産国のイギリスでは、14世紀中ごろからグレーハウンドを使う狩猟は低階級の人々には禁じられ貴族だけの特権となりました。よって代用としてウィペットが庶民の狩猟犬としてつかわれるようになりました。起源的には古代にまでさかのぼるということですが、犬種としては19世紀終わりごろに現れました。