ブリーディングの歴史 1 犬種の開発とは?

世界には500とも800もの犬種がいるといわれています。これら犬種は一体どのような経緯をたどって発生したものなのでしょうか?

人類が犬といっしょに生活し始めた頃、つまりおよそ15000年前では、犬種という概念は存在しておらず、我々ヒトにとっては「犬」は「犬」という動物でしかなかったと思われます。とはいえ、きっと地方、地方でそれぞれの特徴は備えた犬はいたことでしょう。アジアの亜熱帯に住んでいた犬と、シベリアのタイガに住んでいた犬は見かけにおいて大きな違いがあったはずです。それは「人種」についても同様ですね。アジア系とヨーロッパ系、見かけが異なります。

ちなみに「種」というのは、英語でスピーシズ(Species) であり、品種 (Breed)や人種 (race) とは異なります。たとえば犬、オオカミ、アカギツネはイヌ科に属する「種」です。品種は「種」の中でさらに細分化させた種類をしめす、と考えていいでしょう。犬という「種」の中に、柴やゴールデン・レトリーバーという品種(犬種)が存在します。異種間では自然の状態では交配を行いませんが(とはいえ、オオカミと犬のハイブリッドはたまに自然界でも存在します)、異品種や異人種同士では、同じ「種」に属するので自然な繁殖が可能です。

話を戻しますが、アジア熱帯に住んでいた犬もシベリアのタイガに住んでいた犬も、考えてみれば、何か犬種名をもらっていても当然だと思うのですね。あきからに両者は見かけが異なっていたでしょうから。アジアの亜熱帯の犬はおそらく短毛ですらりとした犬、シベリアの犬はオオカミのような厚い毛を持つ体躯が大きな犬だったはずです。動物は気候や自然環境に合わせて、見かけ、体型、ときには生理機能も適応させ、生存チャンスを高めます。このようにグローバルな目をもって犬を眺めることで、初めて異品種がいるんだという実感が起こるものですね。そしてお気がつきのように「品種」というのはあくまでも人の認識に基づいた人による分類にすぎません。

その目でみてみると、何もアジアとシベリアという大きな地理的隔たりがなくとも、意外にもっと近場でタイプの異なる犬というのは存在していることにも気がつくでしょう。昔であれば交通網が今のように発達していなかったので、人の移動も限られていました。つまり人について生活する犬の移動も限られていたはずです。地方特有の犬が存在するのはそのためです。日本犬と一概にいっても、紀州犬がいたり甲斐犬、秋田犬がいる。いずれも地名を犬種名としてもらっているところにお気づきですか?

遺伝子の移動が地域内に限定された証拠でもあります。すると自ずとタイプが固定されてくるのですね。だからこそその地方ならではの特徴を持った犬が生まれました。今でこそ、その繁殖は犬種内のみ、と血統証書を睨めっこしながら慎重におこなっていますが、その昔は、案外いい加減にやっていたのではないかとも想像します。でも車や電車がない時代であれば、人と犬の移動は限られるので、地域に他の地方から犬が入ってくる、ということはほとんどありません。だからよそからの血が混じりにくく、自然と純血の犬が作られていったというわけです。

このような経緯で誕生した特徴ある犬の集団ををナチュラル・ブリードと呼ぶ犬学者もいます。とはいえ、日本犬は完全なるナチュラル・ブリードではないかもしれません。というのも多くは狩猟犬として使われていたし、つまり狩猟に適した犬が人為的に選ばれ繁殖をおこなった、ということが考えられるからです。

次回は世界に目をむけて犬種について考察していきましょう。

文:藤田りか子

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