ブリーディングの歴史 4 何を「スタンダード」にするべきか?

これまでに世界のいろいろな場所で犬種がつくられてきたわけですが、犬種と呼ぶための指標は、たいていは5世代を通して一定のタイプの犬が誕生すること。ただし7世代、8世代と定義する人もいます。一定のタイプ、すなわち目標にしている「スタンダード」ですね、それが毎回確実に生まれるようになれば、「品種」の確立です。犬種の歴史をみると、その固定化までに数十年という時間を要しています。そう、組み合わせた遺伝子がどう作用するか、どれが表現されるか、そこはまだまだ「神のみぞ知る」ところ。だからこそ時間がかかるのです。犬種の歴史の中でブリーダーたちは試行錯誤しながら、さまざまなコンビネーションを試して試して、その挙句にやっとこれという犬を作出してきたのだと思います。生き物を相手にするのですから工業製品をつくるよう簡単に統一化することはできません。

品種が固定化するのを英語ではBreed trueと呼びます。Breed trueにならないのであれば、まだ品種が確立していない証拠です。とはいえ、確立された犬種でも時に例外の子が生まれたりしますね。Breed trueにするために、そのような「スタンダード」から外れた個体は繁殖には使いません。繁殖とは、この「選択淘汰」の繰り返し作業でもあります。

しかし、何をもってBreed trueというのか。これはその品種のスタンダードによります。そして品種のスタンダードとは、必ずしもいわば血統犬種のように「見かけ」だけとは限りません。たとえば乳牛であれば、乳を一定量以上出す牛が「スタンダード」になります(もちろん乳量の他にも健全性や体駆も基準となっていますが、ここでは説明のために簡略化します)。

さて、もしみなさんが新しい犬種を作るとしたら、何をスタンダードにしたいと思いますか?

私は常々思っているのですが、都市化が進んだ日本ではみかけよりもむしろ「飼いやすさ」と「健全性」を優先とした犬種が今度は作りだされるべきだと思っています。つまり見かけはあまり気にしない、都市生活でもいっしょに暮らしやすい気質を持った犬。そこをスタンダードにしてブリーディングをして犬種をつくれれば理想的でしょう。とはいえ、その新犬種のブリーディングとなると両親犬の気質を繁殖毎にチェックする必要があります。そして気質の何が遺伝的要素なのか、とうことも知り尽くしていなければなりません。

ちなみに北欧のスウェーデンには、現代社会に犬がより適応できるよう、見かけはもちろん、気質の部分においても選択をしてブリーディングすべし、という意図のもとに気質テストなるものが存在します。これはスウェーデンケネルクラブが行っているもので、BPHテストと呼ばれています。スウェーデン語でBeskrivning av Hundars mentalitet och Personlighet、すなわち「犬の気質と性格の記載」という意味。このテストでは犬の気質・性格が正しいか間違っているかを判断することはなく、犬をいろいろな状況において、その際にどのように振る舞うのかを観察して記録し、そこから気質・性格を割り出していきます。

これら結果を犬種別で統計をだすなど、犬種クラブは自分達のブリーディングが今、どのような立ち位置にあるのか、あるいは今後どのようにすべきかを判断するわけです。このようなシステムを持つのはおそらく世界でもスウェーデンだけではないでしょうか。単に「この子は人懐こい、社会性がある」と飼い主が主観的に感じたことをデータとするのではなく、標準化されたテストをつくり数値化する。そしてそれがどのように世代に伝わっているかもチェックしています。こうなるともう「気質遺伝の科学」ですね。BPHの結果はもちろん学術研究のデータとしても使われています。

気質という部分をどのようにスタンダードとして形にするべきか。これはとてつもなく大きな課題でもあります。しかしすでに存在している犬種の中でも割合飼いやすいという犬種の気質・性格プロフィールを見ることで、どんな部分が気質として必要なのかを推し量るという手もあるでしょう。

気質の中で私たちが目を光らせておかなくてはならないのは「恐怖心の度合い」です。恐怖心の強い犬はいわば「ビビり」と呼ばれるタイプです。恐怖心の強い犬は攻撃性にもつながるのでぜひ選択淘汰しながら繁殖を進める必要があります。

文:藤田りか子

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