ブリーディングの歴史 13 総集編

これまでみなさんにブリーディングシリーズをお届けしましたが、今回は最終回。というわけで、これまでの総集編としてブリーディングの歴史のおさらいとこれからの犬種開発についての考察を!

犬のブリード黎明期
ブリーディングというといかにも「近代的」な発想のように聞こえますが、実は古代からなんとなく行われてきてものだと思います。その頃は、きっとブリーディングなんて言葉はなかったかもしれません。必要に迫られ出来上がったという感じでしょうか。狩猟犬などはその典型でしょう。

エジプトのピラミッドの壁画などを見るとすでに狩猟犬が描かれており、そしてブチの犬が登場しています。そして狩猟犬はとてもスリムなタイプです。このように特定の見かけや機能を持つ犬が存在していた、ということは人が犬の繁殖に何かしらの介入をしていた、と考えられます。人が動物の繁殖に介入すること、それがブリーディングです。犬のブリーディングはすでに9000年前に行われていることがわかっています。シベリアのジョホフ島で発掘された犬骨を調査したところ、当時から人と住んでいた犬は、「ソリ犬」と「狩猟犬」に分けられ選択的に繁殖していたようです。とはいえ、もしかしてそれよりも前に人類はブリーディングを行っていた可能性もありますね。単にまだ証拠がでてきてないだけの話かもしれません。

ブリードという概念の誕生
ブリードという概念がはっきりしたのは1800年代のことですが、その前にも犬をタイプ別に分けようとした人がいました。1500年代に自然科学に多いに興味を持っていたジョン・カイウス博士が 「イギリスの犬辞典」を著し、初めて本格的な犬の分類を試みました。そこでは機能別に分類が細かに行なわれています。狩猟犬(獣猟)と鳥猟に使われる犬のカテゴリー。さらに「優しい犬」という項目が設けられているのも興味深いものです。これは小型の愛玩犬を指しているようです。また牧畜犬のカテゴリーもあります。一番最後には「雑種」という分類も。これはおそらく機能をもたない犬、ということなのでしょう。このように「犬を機能別に分ける文化」は、その後の犬種を作る、純血を作る、という情熱として育っていったのかもしれません。

新犬種創造ラッシュ期
1800年代のイギリスは、まずは狩猟犬の品評会を行うことで犬種の概念を確かなものにしていきました。その後、自国にもともといた犬のみならず、世界から犬をかきあつめ、犬種を作っていきました。中国からシーズー、シベリアからサモエド、アフガニスタンからアフガンハウンド、といった具合です。そして品評会をさかんに行いました。そこで賞を得ることによって、次の繁殖につなげていく、ということが流行していきます。とはいえ、審査員が賞を与える基準がはっきりせず、不公平が存在することに人々は気づきはじめました。そこで登場したのが「スタンダード」という概念です。犬種はこういうタイプでこういう見かけであるべき、という標準書。ここから「犬種」という考え方が世の中に一気に広がっていったといってもいいでしょう。現存するほとんどの犬種は1800年代後半から1900年前半にかけて作られました。

家庭犬として犬種が広まる
1950年代以降、世界中で犬種が家庭犬として広がっていきました。映画などメディアによって流行犬種という現象も生まれました。たとえば映画「ラッシー」に登場したラフ・コリー、101匹わんちゃんのダルメシアンなど。世界大戦時代における軍用犬の活躍によって、欧米ではジャーマン・シェパードが大ブームともなりました。このブームは2000年ぐらいまで続いていましたが、突如小型犬種に注目が注がれます。その点で日本はすでに流行の最先端を行っていたと言ってもいいでしょう。欧米ではセレブがバッグにチワワを入れてSNSなどに登場したことで、一気に小型犬の人気が上昇。そしてその小型犬ブームは現在なお続いています。

デザイナードッグの登場
純血犬種同士を掛け合わせてF1(雑種一代)を作る。たとえばチワワとダックスフンドを掛け合わせて「チワックス」と名付けてみたり、キャバリア・キングチャールズ・スパニエルとプードルをかけあわえて「キャバプー」と呼んでみたり。自分が好きなように犬を組み合わせて「独自」の犬を作るデザイナードッグのブームが2010年代に起こります。このブームは現在も続いているといってもいいでしょう。ことの発端は1980年代にアレルギー・フレンドリーな犬を作ろうという努力のもと、ラブラドール・レトリーバーとプードルを掛け合わせ「ラブラドゥードル」という名でクロスブリードが生まれたこと。とはいえクロスブリードは新しい概念ではなく、たとえばソリ犬や狩猟犬の世界でもしばしばおこなわれていました。また作物の品種改良にも使われています。とはいえ、家庭犬としてのクロスブリード、すなわちデザイナードッグのブームは一方で無責任なブリーディングを助長するようにもなりました。

今後の犬種とは?
これから犬種はどこにいくのでしょうか?純血種の概念はDNAについての知識はおろか遺伝学がまだ発達していなかった19世紀のものであり、今の科学を持って眺めると必ずしも健全性が保たれているとは限りません。狭い遺伝子プールの中でしか交配できず、血が濃くなり、犬種特有の疾病も増えています。次世代では、もう少し「純血」という概念を緩めて、犬種の特性を保ちつつ外から血をいれて健全性を持った犬種を作っていくことが必要となりそうです。

文:藤田りか子

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